ごぼうを使った料理をひとつ想像してください、と言われたら、あなたは何を思い浮かべますか?
歯ごたえの良いきんぴらや炊き込みごはんなど、日本にはごぼうを食べる美味しい料理が沢山あります。でも、外国の料理ではあまり聞かないですよね?
調べてみると、じつはごぼうを食べる食文化が根付いている国は、ほぼ日本だけだったんです!
子どもの頃を思い返してみても、私も洋食としてごぼうを食べた経験は思い出せません。
生活の中に当たり前にあるごぼうが、海外では食べる人が少ない食材だったなんて不思議ですよね。
この記事では、ごぼうが日本国内で発展した理由が気になるあなたへ、愛される理由と日本人の味覚力について解説していきます!
ごぼうを食べる希少国日本!海外では木の根扱い!?
ごぼうはキク科ゴボウ属の野菜です。にんじん、蓮根などと同様に根菜類で、水分が少なくミネラルが多く含まれています。
中国から縄文時代に薬草として渡ってきましたが、同じアジアでは韓国や台湾以外に広がっていません。
しかし日本では、平安中期から鎌倉中期の間にはゴボウの栽培が可能となり、より多く収穫できるようになったという文献が残っています。
私たちが気軽にごぼうを食べることができるのは、先人たちの頑張りのおかげなんだよ。
ごぼうは昔から日本人に好かれていたんだね!
かつて江戸時代後期に日本に来ていたドイツ人医師のシーボルトが、故郷オランダにごぼうを持ち帰ったという話もあります。
しかし、どんな調理の仕方をしても「美味しくならない」と受け入れられなかったそうです。
海外からの視点では「木の根」にしか見えないごぼうを食べる食文化は到底受け入れがたく、世界のどの国の中でも驚くべき発想だったんですね!
じつは、過去にはこんな有名エピソードもあるんです。
ごぼうを食べる国で起こった悲劇!裁判で有罪判決⁉︎
それは戦時中のことでした。日本兵が捕らえていた外国人捕虜。
外国人捕虜に与えていた食事にごぼうが入っていたということが、のちに「虐待をした」という誤解につながってしまったのです。
戦後の裁判では、何人もの日本人が戦犯として処罰されたという記録も残っています。
ごぼう食をはじめ、ワラの履き物や汲み取り式のトイレなど、当時の文化を「ヒトの生活ではなかった」と断言される誤解が多くあったといわれています。
しかし、古い文献によると、ごぼうは神事の供物として祭壇に上がるほど日本人には神聖で大切な食べ物だったんだよ。
外国人に「虐待」とまで言われたごぼうが日本では重宝されていたなんて、文化の違いを感じるね。
中国から伝わり、他の国々にはない広まり方で私たちの食卓に欠かせない存在となったごぼう。
日本が世界一ごぼうを食べる国だったとは驚きですですよね!?
では、一体なぜ、ごぼうは昔から日本人の心をがっちりと掴んだのでしょうか?
これから、その謎を日本人の「味覚力」に注目してヒモ解いていきますね!
ごぼうを食べる量は世界随一!日本人の味覚力とは
ここまで、ごぼうの日国内での広まりと海外での反応について紹介しました。
じつは、海外で受け入れられなかったごぼうが日本人を虜(とりこ)にするのには、日本人ならではの特性が関わっていたんです!以下の3点に分けて解説していきますね。
- 口当たりが命の日本料理とごぼうとは相性がいい
- 東洋からの文化を受け入れ応用する民族としての協調性
- ごぼうの美味しさ発見の理由は日本人の高い味覚力
口当たりが命の日本料理とごぼうは相性がいい!
もともと日本料理は「口当たり」を大切にするものが多く、日本料理の美味しさの80%を占めているといわれています。
口に入れたときの弾力・硬さ・なめらかさ。ふわふわ、サクサク、カリカリ、モチモチ、ねっとり、とろとろ…。
食感を伝えるための表現を日本人ほど繊細に使い分ける民族は他にありません。
そして、ごぼうの美味しさは、著名な料理人たちがごぼうは「音で食べる」と表すほど、魅力ある歯ごたえにあるといわれているんです!
きんぴらやたたききごぼうは600年近く受け継がれてきた料理なんだよ。昔から「シャキシャキ」は、たまらん音なんだ。
たしかに歯ごたえが良くて、一度つまむとつい食べ過ぎちゃうよ!
ふくよかなその香り以上に、ごぼうの魅力ある口当たりは日本人のハートをしっかり掴んでいたんですね。あなたもその一人ではありませんか?
次は、外国人には「木の根」にしか見えないごぼうを食文化として受け入れてきた理由を見ていきましょう!
東洋からの文化を受け入れ応用する民族としての協調性
中国から伝来したごぼうを食文化に取り入れて食べることができたのは、日本人の「受け身で協調を重んじる気質」のおかげです。
たしかに日本人は協調性があると言われてきたけど、それがごぼうとどう関係するの?と思いますよね。
そもそも、日本は近隣の中国や韓国からの文化を縄文時代から多く受け入れてきました。
しかし、大陸からの影響を受けても完全に同化せず、今も日本だけにしかない文化がたくさんありますよね。
日本列島の海、山、平地で暮らす民族がそれぞれ知恵を出し、長い年月をかけて、取り入れられるものの取捨選択をしていった結果です。
もし日本人にその気質がなければ、シーボルトがオランダへごぼうを持ち帰ったときのように、誰もごぼうに見向きもしなかったでしょう。
また、日本人の祖先は自然のなかで暮らし、環境には決して逆らわないように生きてきました。
その根底には、インド、中国など東洋の考え方があります。自然の力は人間よりもはるかに高いのだという仏教の教え「空」の思想です。
食べるものひとつをとっても、消化吸収の良さや、暑ければ体を冷やすものを食すなど、常に環境に沿う暮らしを大切にしていたのです。
ごぼうの美味しさ発見の理由は日本人の高い味覚力
ここまで、ごぼうの食文化を自分たちの好みに合わせて取り入れた日本人の気質について説明してきました。
しかし、ただの「木の根」扱いだったごぼうを、食感や香りを生かして美味しく調理するというのは、今考えるとなかなか難しそうですよね?
一体なぜ、日本人はごぼうの美味しさを発見することができたのでしょうか?
その理由は日本人の美味しさを感じる力、つまり味覚力にありました。
このことを、実際に数値で検証した調査があります。慶應大発の調査機関が、日本人100名と外国人100名を対象に味覚力の調査を行いました。
人間は味を感じるとき、甘味・塩味・苦味・酸味・旨味(うまみ)という5つの味に分けて味を感じます。
この「味覚力の調査」では、日本人と外国人とを比較して、この5つの味をどのくらい感じられるかについて調査しました。
この調査で、「旨味」についての外国人の正答率は34%となっています。
それに対し、日本人の正答率は71%。なんと2倍以上の差があるということが明らかになったのです。
「旨味」はカツオ節や昆布に含まれる成分として日本人が発見したことで有名なんだよ。
日本人がその美味しさに気づかなければ、ごぼうは今も多くの人に知られることなく、ただの「木の根」扱いのままだったかもしれませんね。
ところで、日本人の「味覚力」によって身近な食材となるまで、ごぼうはどういう存在だったのでしょう?
次の章では、創作料理へと進化していくごぼうの過去から現在、現在から未来の姿について紹介していきます!
ごぼうを食べる部分は?供物から創作料理への変遷も
ごぼうは長く細く地の底へと根付いていくため、とても縁起が良い食材とされています。
そのため「家業や家がしっかりと安定して土地に根付きますように」という祈りとともに、様々な調理法で食されてきました。
ここからはごぼうについての雑学あれこれを紹介していきますね。
意外と知らない?ごぼうを食べる部分は皮以外の全部!
余談になりますが、スーパーで売られているごぼうの食べる部分は、端から端まで全部です。
そのため、ごぼうをまるごと食べるというのは、土のついた薄皮を落としてしまえば十分可能なんです。
一般的なごぼうの皮の取り方としては、包丁の裏側でその部分をこそぐ方法が知られていますよね。
薄くてすぐに取れてしまうため、私自身も、どこまでが皮?と迷いながらこそいだ経験があります。
しかし、ごぼうの香りの良さを生かした調理をするには、ごぼうの食べる部分をできるだけ多く残しておく必要があるんです。
ごぼうの香りの良さは薄皮とその周りが元になっているので、皮を分厚く取ってしまうとせっかくの香りや風味が失われてしまいます。
香りをなるべく残すためにも、ごぼうを食べる部分は多めに残すことを意識して、薄皮はあまりこそぎすぎないようにすることをオススメします!
最後に、ごぼうをついついたくさん食べ過ぎるあなたに、食べる際の注意点を紹介します。
- 1日の摂取目安は160〜180gでスーパーで売られているごぼう1本の約3分の1
一度に食べすぎると下痢や腹痛などお腹をこわしてしまうおそれがあるので、食べ過ぎに気をつけながら、ごぼうライフを楽しみましょう♪
ごぼうは旬に食べると美味しい!300年つづく奇祭も
スーパーで買い物をしているとき「新ごぼう」という名前で売られているごぼうを見たことはありませんか?
じつは、ごぼうにはおおまかに2つの旬(しゅん)があり、私たちが普段食べている一般的なごぼうは「滝野川ごぼう」という品種なんです。
「新ごぼう」とは、滝野川ごぼうを若採りしたものを言います。
それぞれの旬と特徴を知っておけば、その良さを活かす料理を作ることができますよ。
<滝野川ごぼう>
- 10月~1月
- 食感が硬く土の匂いが強い
<新ごぼう>
- 4月~6月
- 冬のものより柔らかく、香り高い
食感と味がしっかりした滝野川ごぼうは、煮物や炊き込みご飯にするのがおすすめです!
また、口当たりが軽く香りが爽やかな新ごぼうは、食感を活かしたサラダや胡麻和えにしてもいいですね♪
さて、そんな滝野川ごぼうの旬である冬場に、江戸時代から続くごぼうを供物にした神事があります。
福井県の越前市国中町にある集落では、旧暦にあたる2月中旬、山のように盛られたごぼう料理を前に会食を行う「ごぼう講」という祭事があるんですよ。
行事中は女人禁制で、男性たちだけでごぼうの丸揚げやたたきなどを協力して行うそうです。
珍しさから海外メディアにも注目され、国内外で毎年必ずニュースに取り上げられているんだとか。
ちなみに、ごぼうの英語名は「edible burdock(食べられる根っこ)」です。
画面越しに、日本の奇祭を面白そうにながめる外国人の姿が目に浮かぶようですね。
まとめ
- ごぼうを食べる国は日本を除いてはごく一部で、海外では受け入れられていなかった
- 食感を大切にする日本料理ではごぼうのシャキシャキした歯ごたえには600年余の定評がある
- 持ち込まれた「木の根」(ごぼう)を食文化にできたのは日本人のもつ受身気質と協調性のため
- ごぼうの美味しさに気づき特性に合う調理法を見つけられたのは日本人の高い「味覚力」のため
- 土に根を張るごぼうは日本では縁起の良い食べ物とされ祭事では供物として捧げられていた
- ごぼうには2つの旬があり特徴に合わせた料理の仕方で美味しく食べることができる
日本人のごぼう愛の原点は、日本食の文化のもとになった「味覚力」が深く関わっていたのですね。
香り高く、日本の食卓で愛され続けるごぼう料理。
世界各国のテーブルに並ぶ、ごぼう料理が見られる日もそう遠く遠くないかもしれないですね。